クーベリック/チェコ・フィルの「わが祖国」
モルダウ
「モルダウ」という合唱曲をご存知ですか?
ボヘミアの川よ モルダウよ~
から始まる曲です。私は中学校三年生の合唱コンクールで歌いました。音楽の教科書の中で
スメタナという作曲家が「わが祖国」という連作交響詩を作っていて、その中の一つがモルダウ
と触れられていました。今回はその「モルダウ」が含まれる「わが祖国」に関してです。「わが祖国」はクラシック音楽になじみのない方にも聞きやすい曲なので是非聞いてください!全部いっぺんに聞かなくたっていいいんです。6曲に分かれているので一曲づつで十分です。
現役復帰した指揮者クーベリック
チェコ生まれの指揮者ラファエル・クーベリックは1914年生まれで、1930年代からチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者・首席指揮者を務めましたが、1948年チェコが共産化するとイギリスに亡命、アメリカ・ドイツなどを中心に演奏活動を行いました。クーベリックの演奏では特にバイエルン放送交響楽団と録音したマーラーの交響曲が有名です。クーベリックは1986年には持病が悪化し指揮者を引退します。
1989年にチェコでビロード革命が起こり、クーベリックはチェコの初代大統領ハヴェルの要請で現役復帰ししました。1990年のプラハの春音楽祭で40年ぶりにチェコ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮、スメタナの「わが祖国」を演奏しました。1991年にもチェコ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、その後にチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の海外ツアーにも同行、東京と大阪で「わが祖国」を演奏しています。そしてクーベリックは1996年に亡くなりました。
私の知る限りクーベリック/チェコ・フィルの「わが祖国」はプラハの春音楽祭1990年の演奏と1991年の東京と大阪の合計3回だけのはずです。大変に貴重な演奏だったのです。プラハの春音楽祭の公開ゲネプロはウィーン・フィルみたく実質コンサートだった可能性があるのでそれを入れるなら合計4回になります。
私は1991年10月に大阪のザ・シンフォニーホールでこの「わが祖国」を体験しました。「聴いた」ではなく「体験した」のです。それ以降30年間私が体験した舞台芸術の中では常に1位に位置している体験でした。
東西冷戦終結という歴史的な時期、引退したクーベリックをもう一度見られるという高揚感、私の個人的事情(浪人中だったw)などもあり、まさに体験でした。このコンサートに関しては今回はここまでにして、1990年の「わが祖国」をご紹介します。
1990年プラハの春音楽祭の「わが祖国」
このクーベリックの1990年の「わが祖国」は幸運にもCD化、映像化されており、現在でも視聴することが可能です。実は1991年の日本公演もCD化映像ソフト化されており、「わが祖国」の演奏、録音だけを評価するなら1991年の録音の方が良いかもしれません。しかし、この1990年のプラハの春音楽祭の演奏はその特別感もあり、まずはこの1990年版「わが祖国」を聞いたり見る事を私は推します。DVDの場合は冒頭からハヴェル大統領の入場、チェコ国歌までの様子も注目です。ビロード革命の後のチェコの人々の様子を知る第一級の資料でもあります。
CDに付属しているブックレット1990年にこのコンサートを聴いた歌崎和彦さんのライナーノーツが付属しています。一部引用します。
「ファンファーレとともにハヴェル大統領夫妻が入場し、チェコ国家が演奏されると、クーベリックが祖国を去ったときにはまだ生まれていなかったような若い女性までが、感きわまったようにハンカチで目蓋を押さえていたのも印象的だった」CD付属ブックレットより
そして「わが祖国」、クーベリックというとどちらかというと抑制の効いた演奏のイメージだったのですが、この演奏は実に熱気あふれる演奏になっています。特に後半三曲が素晴らしい!
はじめての「わが祖国」の聞き方
全て聞くと70分以上かかります。もちろん全て聞いてほしいのですが、「いきなりそんなに全部聞いてられない!」という人には
1曲目の冒頭3分と2曲目「モルダウ」、6曲目「ブラニーク」
をまずは聞いてみましょう。なぜ冒頭3分を聞いて欲しいのかは第6曲ブラニークを聞けば分かります。また、モルダウの冒頭でフルートのミスがありますが、一発勝負のライブ感とその緊張感を味わう事ができるので、むしろプラスと考えています。
実はこの曲で引用されている「汝ら神の戦士」を同じように引用しているフサの「プラハのための音楽1968」や、ハヴェル大統領と共に民主化に大きな力を果たしたといわれている指揮者ヴァーツラフ・ノイマン、それにチェコ・フィル自体、ドヴォルザークやマーラーの話もしたいのですが、別の機会に
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