共産主義国家には国営の青少年クラブがあった? 「Svazarm」の例から

ひょっとすると読者の中には学生時代に「ボーイスカウト」などの団体に入っていた方もいるでしょう。冷戦期の共産主義国家ではボーイスカウトは存在せず、国営のクラブがありました。今回はチェコスロバキアにあった軍事クラブ「Svazarm」を例に挙げ、共産主義国家のクラブの実像に迫ります。

クラブも国営

第二次世界大戦後、中東欧諸国ではナチス・ドイツ時代に禁じられていた青少年クラブが自発的に活動を再開しました。たとえばポーランドではキリスト教青年会(YMCA)が復活しました。YMCAでは地元の人々の支援を得ながら、外国からの支援物資の分配や青少年への教育活動を行いました。

しかし共産主義政権は西欧との結びつきがあるYMCAを警戒視していました。特に英語教育やビリヤードといったゲーム活動にいら立っていたようです。1949年に当局はYMCAを「ブルジョワ的ファシズムの道具」と断じ、解体を命じました。最後には事実上、共産党直属の青年クラブのみが認められることになります。共産党は自分たちがコントロースできない団体や市民社会の存在を容認することはありませんでした。

広範な活動に及んだクラブ「Svazarm」

© HOSTIVICKÉ SPOLKY http://www.hostivickahistorie.cz/spolky/svazarm/index.html

ここでは共産党当局がつくったクラブの一例としてチェコスロバキアにあった「Svazarm」を紹介します。「Svazarm」はチェコ語で「Svaz pro spolupráci s armádou (陸軍協力連合)」の略称です。Svazarmは1951年に設立され、モデルになったのはソ連の「DOSAAF」です。1985年当時の加盟数は約100万人にも及び、そのうちの60%が35歳以下でした。

設立当時は冷戦の真っ最中で、第三次世界大戦への備えをしていました。そのため共産主義国家ではあらゆる場面で初歩的な軍事訓練を行っていたのです。とはいえ、活動内容字体はボーイスカウトに類似していました。

Svazarmの活動内容は多岐にわたり、軍事や医療に関する訓練だけでなく、短波ラジオや飛行機モデルの組立やモータースポーツも行っていました。また自前のクラブも擁し、東側だけでなく西側の曲も取り扱っていたようです。

おそらく最初は「キツイ」ルールもあったと思いますが、時代が経つにつれ「ユルイ」クラブに。挙句の果てにチェコスロバキア陸軍から「Svazarmはあまりにも緩くて、軍事的知識を持っていない」と不満が出るほどでした。Svazarmのメンバーは第三次世界大戦は核戦争であり、初歩的な軍事訓練は時間の無駄と考えていました。

Svazarmは共産党政権の崩壊と共に1990年に解体されました。完全にSvazarmは共産主義時代の遺物になりましたが、模型趣味の礎を築いたという指摘もあります。

参考記事

共産党軍事組織でプラモを作る~エデュアルド社長の回答2

https://cemodel.maidoworks.com/model/special/czech-eduard-answer-2/

投稿者プロフィール

nitta
nitta
新田浩之(にったひろし)、1987年神戸市生まれ。神戸大学国際文化学研究科修了。2018年にチェコ政府観光局公認「チェコ親善アンバサダー」に就任。普段はライターとして関西の鉄道や中東欧・ロシアの鉄道や歴史などを書く。講演なども手掛ける。著書『ロシア・ヨーロッパの鉄道旅行について書いてみた』

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA